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2015年8月 9日 (日)

(再掲載その20)(本の紹介)不可能、不確定、不完全

********2012年8月1日掲載********

 今回紹介するのは「不可能、不確定、不完全(早川書房)」(2600円+税)というタイトルの本。内容をおおざっぱに言えば数学や科学・論理の限界について述べられている本でである。ただ、こう書いても、「何に対する限界なのか」がよくわからないかもしれない。その話をするために、早速この本の序章と第1章の内容をまずは簡単に説明しよう。

 序章には「修理に出した車はなぜ約束の日にあがってこないのか?」と題して、車の整備工場を例に「車の整備を効率よく済ませるために最適な方法は?」ということを数学的に考えている。また、第1章は「万物の尺度」と題して、無限のものを測る、というテーマの話が書いてある。

 この最初の部分の構成は、視点や内容は全く異なるものの、前回紹介した本の最初の部分(時を測るのため最適な形の振り子の話)と同様に「最適なものは?」「測るとは?」の2点がクローズアップされている。

 前回紹介した本との違いは、前回は近代科学の発展の歴史に沿って「最適なものを得る」「正確に測る」ことを述べていたのに対し、今回紹介する本は、論理的な考え方を中心にして「最適なものは得られない」「正確には測れない」ことについて書いている、と言えばわかりやすいだろうか。

 ということで、今回紹介する本で述べている「限界」とは主に「測ること」「最適なものを得ること」の2点と論理に関するものだと考えていいと思う。

 具体的な内容は、本のタイトルにある単語と対応させて「不可能性定理(第4部)」「不確定性原理(第1部)」「不完全性定理(第2部)」などとなっている。このうち、不確定性原理は計測の限界、不完全性定理は論理の限界に関する話で、結構いろいろなところでとり上げられているテーマだろう。

 また、この本には不可能な作図についての話も書かれているが,ここでとり上げている「不可能性定理」とは、そのことではなく、選挙などの投票に関わる社会科学の話である。具体的には、次の3つの条件
(1) 全員が他の人に影響されず、合理的に投票する
(2) 全員がBよりAの候補者を上位だと考えたら必ずAの方が投票結果で上位になる
(3) 敗者(下位の候補)がいなくなっても投票結果が変わらない
を全て同時にみたすような投票方法は存在しない、という定理である。

 ポイントは最後の条件(3)である。例えば「A、B、C」の3人の選挙でAが1位になるとして、負けたCをのぞく「A、B」の2人で決戦選挙をした場合もAが1位になるか、ということを考えるといい。この条件(3)は、それでもAが1位になる、ということを求めているが、実際にはCを支持する人の多くがAを支持しているとは限らない。(ここでは、単に順位のみを問題にして、例えばCに投票した人の割合などは考慮しないものとする。)

 この点を数学的に考察して証明された結果が「不可能性定理」である。これによると、「全員が他に影響されずに投票するとき、全員がAを上位だと考えている場合を除けば、3人の投票で1位になったAが2人の決選投票でも必ず1位になるような投票方法は存在しない」ということになる。

 また、逆に「AとBの2人で選挙をしたらAが確実に勝つような場合でも、全く勝つ見込みのないCも合わせてA、B、Cの3人で選挙したら、AとBのどちらが勝つかはやってみなければわからない」という話にもなる。

 ちなみに、この点は、前回紹介した本の後半に書かれている「共通善」という項目にも関連している。そこには「個人の利益を最適化することで集団はどうなるのだろうか?」という問いかけをした上で「メンバー全員が合理的だと仮定したとしても、皆が善いと考える共通善を定義することは十分難しい」ということが述べられている。

 今回紹介している本に書かれている「不可能性定理」は、前回紹介した本に書かれている「共通善」の定義の難しさを数学的に表現した定理のひとつで、社会科学の中で「最適なものは何か」という問題を考えることの難しさを示すものだろう。

 以上の話の他にも、この本には「プログラムの停止性問題」「相対論・ひも理論」「量子コンピュータ」「カオス」「エントロピー」など、様々な話題をとり上げている。だから、いっぺんに通して読めなくとも、興味のある部分のみだけでも、結構読み応えがあり勉強になると思う。

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